黙認しない社会づくりを

「朝鮮学校『無償化』排除と日本社会」をテーマに講演した河かおるさん

16日、「幼保無償化を求める京都朝鮮幼稚園保護者連絡会」の主管で行われたオンライン集会「朝鮮幼稚園にも『幼保無償化』適用を!京都集会2021~『幼保無償化』除外は何を意味するのか~」。

登壇者たちは「すべての子どもたちの健やかな成長」をうたった幼児教育・保育の無償化制度から、朝鮮幼稚園が排除されている現状とその不当性をいま一度強調したうえで、視聴者たちに対し、問題意識の共有と是正に向けたさらなる結束を呼びかけた。

理屈の「発明」

「朝鮮学校『無償化』排除と日本社会」をテーマに講演した滋賀県立大学准教授で「こっぽんおり」共同代表の河かおるさんは、冒頭、「98年に滋賀県下で開校したブラジル人学校・サンタナ学園(01年に認可外保育施設届け出、各種学校未認可)との関わりのなかで、外国人学校が無償化の対象になるのかを注目していた」と、この問題を考えるようになったきっかけについて言及。そのうえで、現在、各種学校認可の幼児教育・保育施設が、「学校教育法上の学校でありながら『多種多様』で教育の質が担保されていないため対象外とされ、一方で学校教育法上の学校なので、児童福祉法上の教育施設には該当しないと対象外にされている」と指摘した。これについて河さんは、各種学校認可の外国人学校は「理解不能な排除の理屈を『発明』した日本政府によって結果的に排除された」と、多くの矛盾をはらむ同制度を改めて批難した。

すべての教育段階に及んだ排除(写真は河さんの発表より)

さらに上述の矛盾について、①認定こども園など日本の教育・保育行政が「多種多様」化するなか、各種学校のみ「多種多様」を理由に排除する矛盾、②資格や基準が明確でないベビーシッターさえ対象としながら「基準」を理由に排除する矛盾、③各種学校という認可された法的地位がありながら法的地位のない存在と同列にされ、「新たな支援策」による救済対象として扱われる矛盾など、現に発生している矛盾の例を挙げた。

また同氏は、今年4月から始まった対象外施設に対する「新たな支援策」と関連し、実質的な支援主体となる地方自治体への期待を示す一方で、「『朝鮮人をもっぱら教育する学校は各種学校として認可するべきでない』とした65年12月28日の文部次官通達の際、国が排除の方針を示すなかで地方自治体が認可してきた歴史とは異なる流れが醸成されている」として、近年、朝鮮学校に対する高校無償化からの排除や教育補助金の削減など、国に忖度し「首長の裁量でどうにでもなってしまう」ような状況があることを危惧した。

すべての教育段階に及んだ排除(写真は河さんの発表より)

また講演では、滋賀や兵庫など「日常のつながりが生きた地域レベルでの連携」が見られた一方で、制度の対象外となった外国人学校が「横のつながりを生かした取り組みを活発にできてこなかった」と振り返る場面もあった。これについて、河さんは「国が朝鮮学校だけを狙い撃ちしてきたことによる分断や連帯しにくい空気感があったのでは」と述べた。

講演の最後に、河さんは現在の朝鮮学校を取り巻く状況について「すべての教育段階に排除が及んでいる」と強調したうえで、この流れの契機ともいえる高校無償化から朝鮮学校が排除された過程を確認した。

朝鮮高校を対象外とする根本原因となった省令「改正」の内容(写真は河さんの発表より)

とりわけ朝鮮高校を対象外とする根本原因となった省令「改正」に際し、自身が提出したパブリックコメントを紹介しながら「イ、ロ、ハのイでもロでもない学校が日本にあることは、日本が朝鮮を植民地支配したことに歴史的淵源があるからに他ならない。これは日本政府が、ハの項目に込められた植民地支配の歴史的背景を一緒に削り、なかったことにしたものと同然だ」と指摘。

また高校無償化をめぐる裁判以降、朝鮮学校の運営について「不当な支配論」を持ち出し官製ヘイトを続ける日本政府と、それを黙認する社会に対し、「日本の教育行政に対する過去の反省のもと、民主的な社会をつくり、正義を実現するためのはずだった価値が、マイノリティの権利を奪う不正義の遂行に平然と用いられ是正されていない。このグロテスクさに、マジョリティ側が気づき声をあげる必要がある。なぜ『多種多様』の名のもとに、マイノリティの教育が排除されることがまかり通るのか」と、不正義に気づき黙認しない社会をつくる必要性を説いた。

植民地主義の克服

「幼保無償化を求める朝鮮幼稚園保護者連絡会」代表の宋恵淑さん

この日の集会では、幼保無償化と関連し、朝鮮幼稚園が制度から除外される経過と、対象外施設に対し今年度から行われている「新たな支援策」の概要にについて、「幼保無償化を求める朝鮮幼稚園保護者連絡会」代表の宋恵淑さんが振り返った。

宋さんは、幼保無償化の対象外施設に対する「支援事業」の実施に先立ち、施設や保護者の意識を調査する目的で昨年、「調査事業」が行われた際、当初は各種学校の外国人学校幼稚園が対象に含まれていなかったと発言。しかしその後、関係者たちのたゆまぬ働きかけにより、朝鮮幼稚園が「調査事業」の対象となり、新たに調査対象類型として「外国人学校を主たる対象とするもの」が加わったことを説明した。

一方で、根本目標とする幼保無償化制度そのものの対象になるには「法改正という高いハードルがある」ことにも言及しながら「法改正が実現するまでの間、まずは『支援事業』の対象となるよう、実情に合わせた自治体への働きかけが何よりも要になる」と強調した。

最後に宋さんは、幼保無償化を求める取り組みに臨むうえで、認識を共有することの重要性を説きながら「継続する植民地主義のなかで在日朝鮮人に対する差別が繰り返されてきた。人権保障の観点そして植民地主義の克服という観点から民族教育権の保障を求めていくことが両輪として求められる」と発言。さらには「『支援事業』において、より多くの朝鮮幼稚園・園児への支援を実現させることで、幼保無償化本体の適用に向けた法改正の必要性を迫っていこう」と呼びかけた。

(韓賢珠)

「支援事業」とは

21年4月から開始した「子ども子育て支援新制度」では、自治体主体の事業に「地域子ども子育て支援事業」が推進されている。そのうち、「④多様な事業者の参入促進・能力活用事業」の名目で、朝鮮幼稚園など現在、幼保無償化の対象外となっている施設に対する「支援事業」がある。

「支援事業」の概要

  • 国の事業だが市区町村の手上げ方式
  • 自治体からの補助金実施要件はなし
  • 支援額は園児1人あたり月額2万円が上限*ただし、過去3年間の月額利用料の平均額を支給
  • 支援額は国、都道府県、市区町村の3者が3分の1ずつ負担
  • 幼保無償化にあわせ満3歳児以上が対象
  • 対象施設としての「基準」が設定されている