今も昔も変わらない“選択”

地域で開催される新年会や学習会など何か集まりがあれば顔を出し、その際には、必ず署名用紙を持参する―。

「もう習慣のようなものだから」

女性同盟兵庫・須磨垂水支部妙法寺分会顧問の姜昌仁さん(75)は、清々しい表情でそう語った。

姜さんは、日本の定時制高校を卒業後に青年学校、朝青活動、総聯兵庫県本部に勤める過程で、朝鮮の言葉や文化、歴史に触れ、学んだ。以後、義母が分会長を務めた現在の居住分会で、35年ものあいだその意思を継ぎ分会長として奔走してきた。

姜昌仁さん

そんな人生を歩んできたからこそ、幼保無償化制度から朝鮮幼稚園など外国人学校幼稚園が対象外となると聞いたときには「戦前から何も変わらない現状に心底怒りが沸いた」。

そして実体験からくる教訓だと、こう続けた。

「朝鮮人の精神を繋いでいくためには民族教育しかない」。

子どもたちのために行う署名集めは、朝鮮学校への理解を広げるためにも大切な手段だと姜さんはいう。彼女が特にそれを実感したのは、署名を集めようと参加したある勉強会でのことだった。

当時、姜さんが自己紹介をし、在日朝鮮人を取り巻く差別の現状についてはなしたとき、ある参加者からこんな言葉が返ってきた。

「クラスに1人か2人ほど在日の子がいたけど、自分は差別したことはない」

「あの時思ったんです。無知や無自覚が圧倒的に多いなと。自分が直接いじめなかったら済む話ではなく、これは社会的に問われている問題。現に日本が朝鮮を植民地にした歴史のうえに私たち在日朝鮮人がいる。こういう問題に対し、いかに当事者として向き合っているのかなと。そう思うと、署名集めも、ただ用紙を渡すだけでなく、事実を知らせて理解者や支援者を増やす手段にしなくてはならない。今回の100万人署名運動に限らず、これまでも、そういう意識で常に用紙を持ち歩いています」(姜さん)

「今日は何枚書いてもらおうか」「この人に会ったら書いてもらおう」。いつも姜さんの頭の中をめぐるそんな思いたち。

署名数は集まり支援の世論は高まるが、一方で朝鮮幼稚園の園児らは依然無償化対象の枠の外にいる。これらの現状を踏まえ、姜さんは、署名集めの意義を改めて強調しながら、最後にこう付け加えた。

「当事者が声をあげないと変わらないような社会がまだある以上は、声をあげるという選択は変わらない。署名運動もその一環です」

(韓賢珠)