朝鮮幼稚園など各種学校の認可を得た外国人学校幼稚園が除外されたまま幼保無償化制度が実施されて半年、文部科学省は制度の対象外となった幼児教育施設に対する調査事業を開始した。そこで改めて幼保無償化からの朝鮮幼稚園除外について、その問題点や今後の運動のポイントを押さえてみたい。

学びの場の否定

現在、各地には41の朝鮮幼稚園がある。(写真は埼玉初中)

幼保無償化除外の問題点は何よりも、子どもの多様な学びの場を否定し尊厳を傷つける理不尽な差別であるということだ。日本政府は幼保無償化の基本理念に「すべての子どもたちの健やかな成長を支援する」と掲げながらも、外国人学校幼稚園を幼保無償化の対象を拡大するかどうかを検討する場に呼ぶこともなく、別途ヒアリングの場を設けることもなく、各種学校であるという形式的な理由で除外した。

外国人学校幼稚園はマイノリティの子どもたちにとって、自己のルーツにつながる言葉や文化に接しながら自己肯定感をはぐくみ、健やかに成長できるかけがえのない施設である。

幼保無償化制度が真に「すべての子どもたちの健やかな成長を支援する」ものとして、また日本社会の一人ひとりの子どもの最善の利益を尊重しながら制度設計されたのであれば、外国人学校幼稚園が除外されることにはならなかったはずだ。

全国各地の朝鮮幼稚園保護者たちは口々にこう訴える。「すべての子どもと言いながら、なぜ私たちの子どもは仲間外れにされるのか」「これは尊厳の問題であり、幼い子どもたちの心に傷を負わす、差別の問題」であると。

この世に、仲間外れにされてよい子どもは一人としていない。外国人学校幼稚園も幼保無償化の対象とするよう、今後も国に対し力強く要請していきたい。

朝鮮学校つぶしへの認識

現在、各地には41の朝鮮幼稚園がある。(写真は東京第6初級)

幼保無償化を求める運動の中で決して軽視してはならないことは、文部科学大臣、そして文部科学省や厚生労働省の担当者などが「各種学校から外れて認可外保育施設として届け出れば、保育の必要性がある家庭は幼保無償化の対象となる」などと述べていることだ。

各種学校という地位は、朝鮮学校卒業生たちが国際社会の様々な分野で、また、朝鮮学校在校生たちが都道府県の代表として各種スポーツ大会や芸術コンクールなどで活躍している実態に即して考えたとき、不十分なものである。しかし、在日一世、二世たちが「各種学校としても認可するべきではない」とする文部事務次官通達を跳ねのけて、心ある日本の皆さんとともに獲得した権利であり、それを土台に民族教育が発展してきた歴史がある。その既得権を返上し、今ある朝鮮幼稚園の形を崩すことになり、なおかつ保護者の間で適用される人/されない人が生じてしまう各種学校外しという方法は、決してとるべきではないと思う。そのような甘言につられ、各種学校を外したら、次は何を奪われ、どんな理不尽な仕打ちを受けることか。幼保無償化除外問題を、理不尽極まりない高校無償化からの朝鮮高校除外問題と軌を一にする朝鮮学校つぶしとしてしっかりと認識し、危機感を抱く必要があると強く感じている。

運動の賜物、粘り強く声を

現在、各地には41の朝鮮幼稚園がある。(写真は川崎初級)

さて、こうした問題点を押さえたうえで、今後について簡単に触れたい。現状では各種学校の外国人学校幼稚園が幼保無償化の対象となるためには法改正が必要となり、ハードルは高い。ただ、悲報ばかりではない。この間の私たちの運動によって、冒頭で述べた調査事業に、各種学校も含まれることとなったのだ。

昨年夏以降、全国の朝鮮幼稚園の保護者達は幾度となく関連省庁や国会議員会館、都庁、府庁、市役所、区役所などに足を運び、国会議員や地方議員、関連省庁の担当者らに申し入れをし、集会やパレード、署名活動によって世論を喚起してきた。各地の朝鮮幼稚園ではこれまで以上に、地域との交流や公開保育を行い、高校無償化実現のために闘ってきた朝鮮高校生たちや卒業生たちをはじめとする様々な世代の同胞が、街頭宣伝や絵本の作成など、多彩な運動を繰り広げている。

日本の皆さんによる支援の輪も日に日に大きくなっている。

こうした活動が、昨年11月27日の衆議院文部科学委員会における幼保無償化に関する質疑応答のなかで、対象外施設への財政支援に「各種学校も含め検討中」であるという文科大臣の答弁を引き出し、今般の調査事業に各種学校である朝鮮幼稚園など外国人学校幼稚園も含まれることとなったのだ。運動の賜物であると言えるだろう。

その調査事業であるが、国が自治体に委託して、当該自治体下の幼児教育施設の実態や保護者の意識、今後の支援のあり方などに関して調査し、来年度以降の本格支援につなげるもので、すでに公募要領は3月23日付で文科省から発表されている。ただし、調査事業の対象となる施設は自治体によってなんらかの支援があるものに限られており、この調査事業からも漏れてしまう施設があるという問題点がある。さらに、国が自治体に判断を丸投げし、自治体は国に忖度するという責任の押しつけ合いの果てに、結局のところ、朝鮮幼稚園が調査対象に含まれない危険性があることも十分注意したい。

そのような事態を回避するため、文科省に対して、調査事業には各種学校も対象に含まれることを記した通知を自治体に発出するなどの措置を講じるよう、引き続き粘り強く申し入れしていく必要がある。そして自治体に対しては、朝鮮幼稚園をはじめとする外国人学校幼稚園を調査対象施設として認識し、国に対して声をあげるよう、しっかりと要請したい。同時に、朝鮮学校・幼稚園が地域にとっていかにニーズがあるのか、保護者や日本の支援者たちの声もきちんと反映していきたい。各地の朝鮮幼稚園と保護者の取り組みについては、今後朝鮮新報で紹介していければと思う。

さいたま市による「マスク不配布問題」からもみられるように、幼保無償化からの外国人学校幼稚園除外の方針を国がいったん出してしまったことによって、外国人学校幼稚園の子どもたちは除外してもよい、仲間外れにしてもよいという誤ったメッセージが社会に漂ってしまっている現状に、保護者としては大変悲しく悔しい思いでいっぱいだ。幼保無償化適用実現のための運動は、すべての子どもたちが仲間外れにされることなく、平等に尊重されるよう求める運動であるという揺るぎない信念を持って、引き続き声をあげていきたい。

(幼保無償化を求める朝鮮幼稚園保護者連絡会代表)