兵庫県宝塚市議会が6月26日、「外国人学校幼稚園に救済措置を求める請願」を採択した。幼保無償化をめぐる請願採択は日本の自治体で初の事例だ。これと関連し、請願採択に尽力した議員や関係者たちの話を聞いた。(李鳳仁)

交流の経験から

「…国の担当者は、現場も見に来ないで、無償化から除外したのです。それは、見に来ないのではなくて、見に来られないのでしょう。日本の幼稚園と何ら変わらず、素晴らしい教育の現場を見てしまったら、朝鮮学校幼稚園を無償化から除外する理由がなくなってしまうから」

社民党の梶川美佐男議員は請願の賛成討論で、自身も訪問した伊丹初級付属幼稚班の公開授業(1月31日)について触れながら上のように述べた。

この発言について、梶川議員に尋ねると「行った人間が現場のことを言わなあかん」ただその一心だったという答えが返ってきた。

梶川美佐男議員

梶川議員は「議員になってすぐの頃、尼崎の朝鮮学校に行く機会があった。小学1年生くらいの女の子から花束を受け取ったことが印象深い。今でも当時の写真が残っている」と顔をほころばせた。伊丹初級の公開授業を訪ねた際には、園児らの姿から自身の孫を思い起こさせたという。

「私にも孫がいるが、孫の保育所の参観日と同じように、胸にこみ上げるものがあった。大人の責任として、なんとかせなあかんと強く思った」。

梶川議員は、今回の請願書採択について「必ず、すべての子どもたちを対象にするべきだ。宝塚市がそのための第一歩を踏み出せたのではないだろうか」と語る一方で「伊丹市、川西市でも同じように問題解決のため進んでいけたらと思っている。今からが勝負だ」と話した。

同じく、請願採決の前に賛成討論に立った立憲民主党の北野聡子議員は「賛成14人、反対が11人のぎりぎりの採択だったが、請願が通ってホッとしている」と話す。

北野聡子議員

北野議員によると、請願はそう簡単に通るものではなく、一度不採択になれば、同じ内容で提出することはできないという。この間、外国人学校幼稚園への幼保無償化を求める請願を出すにあたり、北野議員や関係者らは「出す限りは通さなければ」と、請願内容を何度も吟味し、文言を精査した。

過去に小学校教諭を務めた際には、朝鮮学校との交流の場に教員として参加した経験を持つ北野議員は「宝塚朝鮮初級学校がまだあった当時、日朝友好の集いというものがあり、日朝の子どもたちが交流する機会が多かった。会う前は緊張していても、子どもたちはすぐに友だちになって、文通したりしていた。知らないとわからないが、知っていけば子ども同士でもわかり合える」と振り返った。さらに「高校無償化から何年も外されている神戸の朝高生の悔しい気持ち、それでも健気に胸を張って生きていきたいという彼・彼女たちのことばを聞くたびに、私も頑張らなきゃと思う」と話した。

偏見の色眼鏡はずして

「議員だけではできなかった。『市民の会』の皆さんからずっと刺激を受けながらやってきた。確固たる信念をもった皆さんがいることが本当に心強い」

そう北野議員が語るほど、今回の請願採択において大きな役割を果たしたのが、「朝鮮学校を支える宝塚市民の会」(以下、「市民の会」)だ。

「市民の会」は昨年以降、朝鮮学校関係者らとともに、幼保無償化からの各種学校除外に反対し、宝塚市(9月)に対して救済措置を求める要望書を提出。12月には「市民の会」はじめ14団体が連名で再度宝塚市長宛てに要望書を提出した。この過程で要望の実現のためには議会での採択が不可欠だとの認識のもと、「市民の会」のメンバーたちは、今回の請願書を提出するに至った。以降、5月末の提出締め切りまで、地道に賛同団体を募り続けた結果、兵庫県外国人学校協議会を含む17団体が、請願書に名を連ねた。

請願提出に尽力した一人、「市民の会」の田中ひろみさん(73)は「朝鮮について危機をあおる日本のマスコミの影響もあり、朝鮮学校というだけで、ものすごい偏見の色眼鏡で見られてしまう。そんな中、宝塚市議会で議員の皆さんが一生懸命、賛成討論をしてくれた。反対をした議員もいたけれど、その賛成討論が成されただけで感動した。そして請願が採択された。これをきっかけに、朝鮮学校に関心を持って、見て、知ってくれる人が少しでも増えてくれたら」と話した。

今回の請願採択について、伊丹初級の金幸一校長は「私たちの主張が市に認められ、たいへんうれしく思っている。伊丹市、川西市に対しても、引き続き、思いを伝えていく」としながら次のように述べた。

「議員の皆さんや『市民の会』の皆さんと協力しあえるのは、この地域で築き上げた、朝・日市民や生徒たち同士の交流の伝統があってのことだ。先代たちは、なぜこの地に朝鮮学校があるのか、なぜ在日朝鮮人が日本に住んでいるのかと、日本の人たちにあらゆる手段で伝えつづけてきた。今後も皆さんと手を取り合って、子どもたちの権利を必ず守り抜きたい」