無知と悪意が混在

幼保無償化が10月1日にスタートした。

保護者たちの再三の要請にもかかわらず、朝鮮幼稚園は制度から除外されたままだ。

私も5歳の娘を朝鮮幼稚園に送る一保護者として、「幼保無償化を求める朝鮮幼稚園保護者連絡会」に参加し、政府関係府省や地方行政への要請、国会議員や市議会議員への協力要請、テレビ局への取材要請など、いくつかの活動を行った。

不公平と「漏れ」

まず、幼保無償化は、「すべての子どもたちが健やかに成長するよう支援する」という基本理念からはかけ離れ、不公平と「漏れ」を抱えたままスタートする不十分な制度だという点を確認しておきたい。

国の制度では、認可保育所や認定こども園などに通う3~5歳児の場合、保育料は全額無料となるが、認可外保育所を利用する場合は全額無料とはならず、上限付きで利用料が補助される。

認可保育所に預けたくても定員の問題で認可外保育所に預けている保護者も少なからずいる中、認可なら無料、認可外なら負担分があり、明らかに公平性を欠いている。

また、保護者や地域のニーズによって運営され、実質的には幼稚園と同様の教育を行いながら、法人格や敷地面積の問題で幼稚園の基準を満たさない「幼稚園類似施設」と呼ばれる施設が全国にあり、無償化制度からは漏れることとなった。

共同通信社の調査によると、国の基準では無償化にならない世帯に対して独自財源で財政的支援の実施を決めるか検討している自治体が9月13日の時点で実に6割超に上った。

これは、国の制度が不十分であることを示すと同時に、住民の不満や要望を受けて、不公平や「漏れ」のないように地方自治体が良識をもって対応しようとしていることを示している。

理不尽な制度的差別

朝鮮幼稚園は、「各種学校は除外」という刃によって無償化の対象から外された。

昨年12月28日の関係閣僚合意「幼児教育・高等教育無償化の制度の具体化に向けた方針」(以下、政府方針)では、各種学校が「法律として」幼児教育の質を担保するものではないため、無償化の対象とならないとした。

全員無償化が謳われるなか、朝鮮幼稚園に通う子どもたちについては、幼児教育の質や内容が確認されることもなく、形式的に幼児教育無償化の対象外とされた。

また、「各種学校は認可外保育施設に該当しない」という法令的根拠のない政府方針によって、朝鮮幼稚園は保育の実態があろうがなかろうが、保育無償化制度の対象とはならないとされた。

私の住む市でも、ある株式会社立のインターナショナルキッズスクールが行政からの積極的な働きかけのもと、この夏に滑り込みで認可外保育施設の届け出を済ませ、無償化の対象となった。

制度としては極めて自由な設計が可能な株式会社立の施設が無償化の対象となり、学校法人立の施設が対象外となるという歪んだ事態が起きている。

これは、先述の不公平や「漏れ」とは根本が異なる。

各種学校は名指しでわざわざ外されており、意図的な排除といわざるをえない。

そしてその本質は、ほかでもない、朝鮮人への民族差別、朝鮮学校排除の制度的差別である。

各種学校を対象外としたのは、朝鮮人・朝鮮学校への制度的差別を覆い隠すための狡猾な屁理屈にすぎない。

なお、各種学校の運営する幼児教育・保育施設は、滋賀県立大学の河かおる准教授の調べでは、全国に93校もある。

そのうち40校が朝鮮幼稚園、ほかの53校は英語系・南米系・欧州系・中華系などの外国人学校だ。

これから日本は多文化共生社会へと進むとされるが、すでにある外国人学校に対してこのように制度的に差別をしていることについて、果たして国民の理解を得られているのだろうか。

無知への対抗策

問い合わせに応対した市の子ども生活部保育・幼稚園課の若手職員は、管轄に朝鮮学校があることすら知らなかった。

そればかりか、「みなさん、転園されてはどうですか?」と勧めてきた。

あまりにも知らないので、公開授業が近いので一度来てくださいと提案してみたところ、「ぼく、日曜日は勤務外なので無理です」との返答だった。

「働くママ、パパのために戦います」と謳う新人議員に私たちの理不尽な状況を伝えると、失礼があれば申し訳ないと断りながらも、納税義務は果たしているのか、なぜ日本国籍をとっていないのか―と、無知と偏見からくる質問を返してきた。

一方、市の担当課長は私たち保護者との面談の場で、極めて事務的な対応をした。

政府の方針に従い決まったとおりに実行する。

話は聞くが返答はしない。

返答が欲しいなら「要望書」の提出が必要、と最後に言い放った。

政府関係府省の役人に至っては何度問い合わせても繰り返し同じ返答しかしない。

例の政府方針のリピートだ。

無償化除外の現場では無知と悪意が混在している。

若手職員や新人議員は私たちのことを何も知らない。

一方、政府の官僚や地方行政の役職者は知らない顔をして、政府の決定だからと事務的に実行させる。

歴史修正主義教育と愚民化政策の「成果」もここまできた感がある。

こうした当事者の現場では糾弾型の戦いは不毛に終わる可能性が高い。

しかし、知らないのだから、知らせるしかない。

少なくとも、不十分な制度により漏れたり外された他の当事者の方々と手を携えて「世論戦」を展開するべきだ。

幸いにも私の周りの保護者からは次のような言葉が聞かれた。

自分も自治体に電話してみる。

私は本気で手紙を書いて市議会議員全員に送ってやる。

誰かインスタのインフルエンサーを動かせないかな? だったら、アンジェリーナ・ジョリーを動かそう、という声まで。

当事者として何ができるか、それぞれができることをやろう。

そうして世論に働きかけよう。

その視点に立つと前に進む力とアイデアがどんどんと湧いてくる。

(朝鮮大学校経営学部准教授)