昨年6月、関係者たちは「100万人署名運動」を通じて集まった署名と無償化適用を求める要請書を国へ提出。これを皮切りに、各地から要請団が相次いだ。

2019年5月の改正「子ども・子育て支援法」交付により、同年10月から幼児教育・保育の無償化(以下、幼保無償化)がスタートした。日本に暮らす「すべての人々」に課せられた消費税の増税分が財源にもかかわらず、開始当初から朝鮮幼稚園など各種学校認可の外国人学校幼稚園を無償化の対象外とした同制度。これに対し、朝鮮幼稚園の保護者や学校関係者をはじめとする多くの同胞、日本市民らは、現行制度の是正を求め、絶えず声をあげてきた。

とりわけ2019年12月から始まった「100万人署名運動」には広範な人々が賛同し、今年4月時点で約107万もの署名が集まるなど、国が率先し行う排他的な動きに対し、異を唱える声は急速に広がりを見せている。依然として続く「除外」の現状を考えるうえで、「100万人署名運動」がどのような経験になったのか。民族教育権擁護のため、署名運動に率先して参与した人々を紹介する。全5回。

民族教育への思い原動力に

3月16日、「朝鮮幼稚園幼保無償化大阪対策委員会」から府下総聯支部や分会などへ速報が回った。署名集計の最終期限となる3月までに「100万人署名運動」に拍車をかけようという趣旨のもので、16日時点で110人もの人々から署名を集めた、ある同胞が紹介された。

散歩道がてら道行く人に声をかけ、親交の有無に関係なく近隣の住民宅も訪ねた。また家族や親族、知人などには電話連絡で協力を請うなど、人並みならぬ熱意で署名集めに奔走したのは総聯大阪・吹田支部顧問の李楨石さん(83)だ。

総聯吹田支部の姜賢委員長いわく、同地域で長いこと分会長を務めながら、大阪府下の朝鮮学校や地域同胞コミュニティのためなら時間や労力を惜しまない「スーパー顧問」。

大阪府下の関係機関でまわった速報

李さんは、今回の署名運動について「なかには署名をしてくれない家もあったが、近所の人たちはほとんどが皆快く署名してくれた。何人になろうと、差別がなくなるまでやらなきゃいけない」と語気を強める。署名集めの過程で、李さんが肌で感じた日本社会の保守化や、「反韓」ムードの強まりもあり、その思いはなおさら強かった。

李楨石さん

当初、幼保無償化から朝鮮幼稚園が除外されたと聞き「それは絶対あかんやろと思った。高校無償化からの流れがあるし、ひ孫たちが幼稚園に通う世代なので、すぐに孫たちの顔が浮かんだ」という。

生まれは大阪だが、戦時中に熊本へ疎開した李さん。当時地域に朝鮮学校がなかったことから高校まで日本学校に通い、青年学校で初めて朝鮮語を学んだ。その後すぐ、知人の勧めから朝鮮大学校の教員養成所(5期生)に入り、半年後、東大阪第3初級(当時)に着任。病床に伏せたため5年で教員生活を終えることになったが、李さんにとってそれまでの期間は、民族教育の意義を身に染みて感じたかけがえのないものだった。

「教員養成所で学んだ当時、日本各地から集まった同期生たちのほとんどが、朝鮮語がまだ身についていなかった。なので講義を聞いてもちんぷんかんぷんだった。『君たちがなぜぽかんとしているのか話します』と、当時の講師に言われ現代史を学んだとき、涙が出た。今でもあの頃を思うと泣けますよ」(李さん)

「朝鮮人として生きること」を教えてくれた民族教育への強い思い。李さんは、戦前から継続する在日朝鮮人への差別政策を前に、異国の地に生きる同胞たちが「民族教育を大事にする思いを改めて共有しなければ」と力を込める。

「どんなに日本政府がいじめても、日本からウリハッキョがなくなることはない。そんなに情けない民族ではないから。民族教育は朝鮮人として生きることへの肯定感を与えてくれる唯一の場所だよ」

(韓賢珠)