署名引き渡し後に行われた懇談のようす

幼保無償化制度の開始以後、1年半が経過しようとしている。この短くない歳月のなかで、保護者や学校関係者をはじめ各地の同胞や日本市民たちは差別是正を求める運動を推し進めてきた。昨年、兵庫県宝塚市で無償化の対象外とされた外国人学校幼稚園に救済措置を求める請願が採択されたことや、今回の平和フォーラムによる13万以上の膨大な署名集めなど、これまでの運動実践が明らかにしたものは、地道な呼びかけと働きかけが多くの市民、そして行政や自治体を動かすということだ。24日、都内で行われた署名引き渡しの場に参加した関係者らの声を紹介する。

東京第6初級保護者・慎泰廣さん

上の子が今年3月に卒園し初級部に入学する。幼保無償化についていまこの場で思うのは、これまでの在日朝鮮人を取り巻く権利擁護運動についてだ。自分が高校時代には、大学入学資格問題が浮上していて、当時高校生ながらに「なんでこんなにも現状が変わらないのか」と憤りを感じていた。しかし教職につき子どもたちに教える身となり、また親となり子どもを育てる立場になってもまだ、同じような問題が起き、それを解決できていないことに対して、自分の無力さややるせなさを感じる。次世代たちが、同じ地域に住むもの同士、共に歩んでいける社会をつくるために声をあげていきたい。

東京第1初中付属幼稚班・韓永心主任

創立52年という歴史ある幼稚園に勤めながら、子どもたちを在日朝鮮人として立派に育てるために日々保育に邁進してきた。近年、少子化が進むなか、4年前までは園児数が増加するなどしたが、幼保無償化が始まって以降は減少傾向にあり、その影響は明らかだ。「朝鮮人として育てるにはここしかない」と言って送ることを決めてくれた保護者たちの思いに触れる中で、責任の大きさを感じている。

未来ある子どもたちの学びの場を守るために、引き続き自分の役割を果たしていく。

幼保無償化を求める朝鮮幼稚園保護者連絡会・宋恵淑代表

2019年12月に開始した署名運動に、在日同胞はもちろんのこと日本のさまざまな市民団体の皆さんが「朝鮮幼稚園の除外はおかしい」と声をあげてくれたこと、そして昨年夏、日本各地から朝鮮幼稚園関係者や市民団体が国の関係府省を訪ね、「これが日本社会の声だ」と直接声を届けたことが、4月からの「新たな支援策」に朝鮮幼稚園など外国人学校幼稚園が含まれる結果をもたらしたと思う。

この問題は幼保無償化制度そのものに限らず、継続する植民地主義、朝鮮学校潰し、朝鮮学校差別の流れのなかで起こってきたこと。お金の問題ではなく、学ぶ機会が奪われているということを、日本政府に対し声を大にして言いたい。これからの未来を担う子どもたちの多様性を尊重できる場を日本政府が奪っていると、引き続き提起していきたい。

佐野通夫さん(東京純心大学客員教授)

日本の幼児教育政策全般で問題が多いなか、その矛盾を残したまま、私立幼稚園を救済すると始めたのが幼保無償化だ。そのため制度自体にものすごく矛盾がある。現状として園庭のないビルの一室で保育をする施設も多くあり、子どもの成長を考えた制度づくりが早急に求められる。

また無償化対象外施設に対する「新たな支援策」は、子どもが在住する市区町村が手を上げなければいけない。そうすると同じ園に通っていても対象となる子、ならない子が出てきくるわけで、もともと矛盾を含んだ制度から新たなものを作ったので、矛盾はさらに広がっている。すべての自治体が地域に住む外国人の子どもたちや幼稚園の存在をしっかりと認識し、すべての子どもたちがのびのびと育てるよう政策を進めてほしい。

平和フォーラム・藤本泰成共同代表

ここへきて感じるのは、日本社会において平和運動にはたくさんの人が集まるが、人権運動には人々の関心が非常に薄く意識が向かないということ。

先の戦争は、最大の人権侵害であり、今起きている小さな人権侵害を見過ごせば、それは自分たちに跳ね返ってくると思う。マイノリティの人権が確保されない社会では、あらゆるところでどんどんと差別が膨らみ、私たちがそれを見過ごすことによって、それがまた大きな差別となる。

自分たちの責任として、日本社会の責任として、当たり前にやるべきことという認識で、これからも携わっていく思いだ。

現在、幼保無償化の対象外となる朝鮮幼稚園など各種学校認可の外国人学校幼稚園に通う園児らのうち、昨年年長組だった園児らは、制度の恩恵を受けることなく今年3月に卒園を迎えた。対象外の状況が長期化することは、そのような子どもたちを今後も生むことを意味する。

これ以上「枠の外」と位置づけられ、対象外とされる児童が生まれぬよう、今こそ結束し、無償化実現を手繰り寄せる運動の担い手として、一人でも多くの人々が参与することが求められる。これまでの運動実践は、その重要性を説いている。

(文・韓賢珠、写真・黄理愛)