“自分の子や孫に置きかえ受け止めて”

今年1月31日、伊丹初級附属幼稚班の授業見学に訪れた市議ら

兵庫・宝塚市

兵庫県宝塚市議会で6月26日、「外国人学校幼稚園に救済措置を求める請願」が市議会常任委員会で25人中14人の賛成多数で採択された。幼保無償化をめぐる請願採択は、日本の自治体で初となる。

請願は、伊丹初級附属幼稚班など外国人学校幼稚園に通う宝塚市在住の児童らに対し、無償化またはそれと同等の保障をするよう求めたもので、「朝鮮学校を支える宝塚市民の会」(以下、「市民の会」)、「兵庫県外国人学校協議会」など17団体による連名で提出された。

伊丹初級をとりまく幼保無償化を求める運動は、昨年以降、学校関係者たちと「市民の会」などが中心となり不断に行われてきており、行政に対する関係者たちの地道な働きかけと学校を中心とした連帯の動きが、今回の請願採択に大きく影響したといえる。

昨年11月に行われた伊丹市への要請

外国人学校幼稚園が幼保無償化の対象から除外されることが判明した昨年夏以降、総聯兵庫・宝塚支部、伊丹支部、兵庫朝鮮学園、同校保護者をはじめとする同胞や「市民の会」メンバーらは、宝塚市(2019年9月17日)、伊丹市(2019年11月11日)に対し、救済措置を求める要望書を提出。当時、宝塚市への要請では、中川智子市長が直接応対した。また同年12月13日には、「市民の会」など14団体が連名で宝塚市長宛てに要望書を提出したほか、今年1月には「市民の会」の発案のもと、学校側が全面協力する形で同校幼稚班の公開保育が行われ、伊丹市と宝塚市の市議会議員8人と日本市民らが園児たちの授業を見学する場が設けられていた。

26日の請願採決に先立ち行われた討論で、社民党の梶川美佐男・宝塚市議(社民党)は、日本政府が幼保無償化の対象に、認可外施設を含めながら各種学校という認可のある外国人学校施設を除外した点に触れ「一方は、制度ではなく『実態』で対象とされ、一方は、制度として『形式的に除外』された。これは不公平であり、明らかに差別ではないか」と指摘。そのうえで自身が、今年1月31日に伊丹初級の授業見学をした際、子どもたちの姿に「胸が熱くなった」と吐露した。

そのうえで梶川市議は「私には小学生の孫がいる。孫が保育所の時に授業参観に行ったが、やっぱり胸に込み上げるものがあった。どの保護者もみな同じ感情だと思う」と、実態も把握せず、朝鮮幼稚園に通うことだけを理由に除外した制度の不当性を強調。そして「どうかこの問題を自分の子や孫に置き換えて受け止めてください」と述べ賛成討論を終えた。

宝塚市の中川智子市長へ要望書を手渡す関係者たち(2019年9月)

また、立憲民主党の北野聡子・宝塚市議は、認可外保育施設が「保育の必要性」という実態に即して無償化の対象となることや、昨年萩生田文科大臣が、特定の国に関わることを理由に支援の有無を決めることはないなどと発言したことに言及。

北野市議は「幼保無償化は、その施設がどうであれ、どのような保育内容・教育内容であれ、幅広くすべての子どもに渡って適用されるべきだ。宝塚市においては、約50数カ国の外国人市民の方が生活し、その子どもたちが育ち学んでいる。多様な文化や価値観を持った人たちと、この街で、ともに暮らすことが、未来を生きる子どもたちの国際感覚を養い、人権尊重の精神の基盤となる」としたうえで「幼保無償化が平等に適用され、宝塚で育つ子どもたちが、どのような幼稚園においても保育所においても、等しく豊かな教育や保育の権利を享受できることを切に願」うと討論した。

請願は、市議会の意思として採択されるため、今後宝塚市では、国に対し、請願で求めた内容が実現するよう、市として働きかけていく必要がある。

神奈川・川崎市

先生の歌声に合わせ元気いっぱいに歌う園児たち(川崎初級・今年3月12日撮影)

他方で、幼保無償化制度をめぐり、神奈川県川崎市でも動きがあった。

「真の分権型社会の実現に向」けて、財源確保や市が重要とする事業の推進に関し、国や県への要望活動を実施する川崎市では、国に対し、6月中に「2021年度国の予算編成に対する要請書」を送付した。

要請書では、「(幼保無償化が)3歳から5歳までの全ての子どもを対象とするという観点から」、国に、対象外施設への支援策を講じるよう求めた。また「要請の背景」として、「幼児教育・保育の無償化については検討すべき課題が多い状況」だと指摘したうえで、「対象範囲の早急な見直し」についても必要だとした。同要請書は、今年度に限り新型コロナウイルス感染症の影響から、郵送で提出された。

川崎市には、現在、川崎初級、南武初級に付属幼稚班がそれぞれあり、各学校の関係者たちは幼保無償化を求める自治体への要請をはじめ、継続的に同制度の是正を求めて運動を行ってきた。過去、これらの要請にも同席し、24日の市議会本会議で幼保無償化について一般質問を行った飯塚正良・川崎市議(立憲民主党)は、本紙の取材に対し「朝鮮幼稚園など外国人学校幼稚園が、無償化から除外された昨年以降、なんとか風穴をあけられないかと努力してきた。国が多様性を理由に(外国人学校幼稚園を)除外したのに、もしそれにならえば、川崎市がポリシーとしてきた多文化共生に反するもの」だと答え、引き続き、朝鮮幼稚園など制度の対象外とされた施設を含め「国と川崎市がしっかりと救済措置をとるよう求めていく」と述べた。

学童保育が行われていた3月上旬の川崎初級附属幼稚班のようす。

川崎初級の姜珠淑校長は、昨年の幼保無償化除外以降、川崎地域で長くから築いてきた同胞や地域社会との連帯を基盤に、問題の早期解決を求め、自治体への働きかけを行ってきたと話す。

姜校長は「国が足りないので、地方自治体がしっかりと現場をみるよう要請なども重ねてきた。昨年末からは署名運動も活発に行ってきたが、今回、国に対し、川崎市の声として要請があがったことに大きな意味がある」と言及。

今後、結果が出る調査事業についても、注視し対策を考えていきたいと話した。

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昨年8月5日、「幼保無償化を求める朝鮮幼稚園保護者連絡会」が主催した関係府省に対する要請行動を皮切りに、「院内集会」(同年10月18日)や「11.2全国集会&パレード」(同年11月2日)などを通じ問題意識が拡散され、各地で朝鮮幼稚園を含む外国人学校への幼保無償化を求める運動が広まっている。

外国人差別には「NO」を突き付け、日本社会に住む人々に対し公平に権利を保障すべきという認識がさらに広まるよう、今後も、国のみならず自治体に対し差別政策の是正をしっかりと訴えていくべきだろう。

(韓賢珠)