2日の子ども・子育てPTで発言する連絡会の宋恵淑代表

今年5月10日、幼児教育・保育を無償化するための「改正子ども・子育て支援法」が成立した。

これによって、「3歳から5歳までのすべての子どもたちに対する幼保無償化」が、10月の法施行とともに実施されることとなる。

「すべての子どもたちに」を基本理念に、消費税財源を使用還元するとした同政策は、現存する所得の格差への対応策も何ら講じておらず、それどころか各種学校認可の外国人学校はその対象にすらなっていない。

これと関連し、昨年8月、朝鮮幼稚園関係者らは「幼児教育、保育無償化に関する研究会」を発足。

各種学校の朝鮮学校付属幼稚園も無償化の対象に含まれるよう、認可外保育施設の届出を行うなどの方策について議論を重ねてきた。

今年に入り、「各種学校は、認可外保育施設に該当しないため無償化対象外」、とする政府方針が定まったことをうけ7月、その緊急性から「幼保無償化を求める朝鮮幼稚園保護者連絡会」(以下、連絡会)を立ち上げるに至った。

無償化から各種学校だけが対象外とされる。

その経過と連絡会の動きについて順にみていきたい。

まず最初に確認すべきは、幼保無償化の根拠法となる「改正子ども・子育て支援法」の基本理念である。

基本理念では、「子ども・子育て支援給付その他の子ども・子育て支援の内容及び水準は、すべての子どもが健やかに成長するように支援するものであって、良質かつ適切なものであり、かつ、子どもの保護者の経済的負担の軽減について適切に配慮されたものでなければならない」としたうえで、明確にその対象を「すべての子ども」としている。

それでは、ここで掲げられた「すべての子ども」とはいったい誰を指すのか。

検討不在の「対象外」

日本政府は、17年12月8日、経済政策「新しい経済政策パッケージ」を閣議決定し、無償化の方針を決定。

3~5歳まですべての子どもの幼保利用料を無償化、0~2歳までの子どもについては、住民税非課税世帯に限り、無償化することを決定し、対象施設を、認可施設の幼稚園、保育所、認定子ども園に通う子どもとした。

日本政府は、その後、「公平性と待機児童解消の観点」から、それ以外の対象については検討することを決め、人づくり革命担当大臣の下、専門家らによる検討会を実施。

2018年5月31日、最終報告書を発表し、「待機児童対策の観点から、共働き世帯など保育の必要性がある児童に限り、認可外保育施設も無償化すること」が提言された。

これは、無認可保育園やベビーホテル、ベビーシッターなどを利用する子どもたちも含まれることを意味する。

しかし当時、検討会におけるヒアリングの対象には、朝鮮幼稚園など各種学校は含まれておらず、これに対し、連絡会の宋代表は、「政府として18年1月から5月にかけて幼稚園類似施設の利用者や、関係者、設置者にヒアリングが行われたと知っているが、各種学校の関係者は一切呼ばれていない。

公正性、保育の必要性から検討会を実施したのであれば、朝鮮学校はじめ各種学校の外国人幼児教育施設も対象とするべきだったのではないか。

保育の必要性があるのに検討すらしない。

実態調査を行わずして検討ができたのか」と指摘している。

また、この際に対応した文科省担当者は「内閣官房が担当していた」案件だと答えている。

学校教育法1条に類する幼児教育を行っており、なおかつ児童福祉法上も認可外保育施設に相応する保育を実施する朝鮮幼稚園。

前述した検討会などを通じ、認可外保育施設や幼稚園類似施設への無償化を具体的に検討したのとは対照的に、各種学校に対しては実態把握のための検討すらしていないことは、おおきな問題をはらむといえる。

日本政府は、その後、2018年12月28日の関係閣僚合意「幼児教育・高等教育無償化の制度の具体化に向けた方針」を決定。

朝鮮幼稚園やインターナショナルスクールなど、各種学校認可を受け幼児教育を行う88の外国人幼児教育施設だけが対象外とする政府方針が示された。

(*注・現在、幼児教育・保育を行っている各種学校は外国人学校のみとなり、つまりこれは、外国人学校=幼保無償化の対象外であることを意味している。

) 各種学校を無償化の対象としない理由は、各種学校が(1)幼児教育を含む個別の教育に関する基準がなく多種多様な教育を行っていること、(2)学校教育法にもとづく教育施設、つまり朝鮮幼稚園は、児童福祉法上、認可外保育施設には該当しないこと、をあげており、この方針について各都道府県へ通知(4月5日厚生労働省子ども家庭局長「児童福祉法施行規則の一部を改正する省令の公布について」)や説明会(5月30日「幼児教育・保育の無償化に関する都道府県等説明会」)などの形で自治体にも周知させた。

各種学校を無償化の対象外とした矛盾点について、現在、署名キャンペーンを展開する学者有志たちが唱えた要請文には、以下のように記載がある。

 “政府は多種多様な教育を行っているから幼児教育の質が制度的に担保されないとしていますが、多種多様であることと質の担保は全く別です。

各種学校未認可の外国人学校は認可外保育施設として幼保無償化の対象になるが、各種学校認可の外国人学校は、「質の担保」ができないから対象にならないというのは、どう考えても矛盾しています。

受理後の取り消し

各地の朝鮮幼稚園では、「認可外保育施設の届出をすれば、保育の必要性がある子どもは無償化対象になる」とした自治体などの説明をうけ、4月以降、各種学校が対象外となったときの次善策として、都道府県宛に認可外保育施設の届出を行った。

4月末、東京朝鮮学園が東京第1、第4、第6、西東京第2の届出を行い、うち第1、第4については受理。

しかし、5月中旬になり、東京都は東京朝鮮学園に対し「第6、西東京第2の届出受理ができないこと」「既に受理した第1、第4の受理を取り消すこと」を通知。

取り消しの理由として「各種学校は児童福祉法上、認可外保育施設にも該当しない」というものだったと学園関係者らは明らかにしており、日本政府が、4月以降、地方自治体に向けて各種学校への届出受理をしないよう指示したことがわかった。

しかし、厚生省によれば、認可外保育施設とは「幼稚園以外で幼児教育を目的とする施設において、乳幼児が少なくとも1日4時間以上、週5日、年間39週以上施設で親と離れることを常態としている場合は、保育の実態があり、こうした施設を認可外施設としている」ため、東京都の対応はまったく根拠がない。

「各種学校は対象外」とした日本政府の決定により、それに該当する外国人幼児教育施設88校、そのうち40校の朝鮮幼稚園が無償化対象から外される見込みだ。

これは、合計5万5千を超える対象施設(認可施設・約45000箇所、認可外施設・1万箇所)全体の0.16%に過ぎない。

幼保無償化を求める朝鮮幼稚園保護者連絡会は、今後各地でも地方連絡会を設け、要請の声をあげていく予定だ。

(韓賢珠)