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〈幼保無償化〉不平等を看過せず救済措置を/各地弁護士会が相次ぎ声明、意見書公表

幼保無償化制度から朝鮮幼稚園をはじめとする外国人学校の幼児教育・保育施設が対象外となっていることと関連し、埼玉弁護士会(12日)、大阪弁護士会(13日)が会長声明を、京都弁護士会が意見書(19日)を公表した。

今月に入り、相次いで公表された各地弁護士会の会長声明および意見書では、「子ども・子育て支援法は、『すべての子どもが健やかに成長すること』(法第2条2項)を基本理念とするものであるにもかかわらず、認可外保育施設の届出を受け付けなかったり廃止届出を求めるなどすることは、実質的な外国人差別を助長するものであって、憲法第14条、自由権規約第2条1項、社会権規約第2条2項、人種差別撤廃条約、子どもの権利条約第2条1項などが禁止する差別的取扱いに該当する」(大阪弁護士会)などと指摘。

そのうえで、国に対し「各種学校の幼児教育・保育施設に対し一刻も早く法改正を行って無償化制度を適用すること」、地方自治体に対しては「住民間に生じている不平等を看過せず、速やかに、政府が無償化制度を適用するまでの間対象外施設又は当該施設に入所している幼児の保護者に対し、救済措置として無償化措置と同等の支援を行うこと」(埼玉弁護士会)などを求めた。

各地の弁護士会の動きについて、玄政和弁護士(京都弁護士会所属)は、「京都弁護士会に先がけ、日弁連や他の弁護士会からも会長声明が出たが、一貫しているのは、幼保無償化制度からの各種学校除外が、憲法14条、社会権規約2条2項、自由権規約2条1項、子どもの権利条約2条1項及び人種差別撤廃条約2条1項等に反する不合理な差別であるということ。国は、各会長声明・意見書を重く受け止め、速やかに各種学校を幼保無償化制度の対象とすべきであり、地方自治体にも積極的な役割が求められる」と強調。そのうえで「京都にも朝鮮幼稚園を含む3つの各種学校幼保施設があるため、これらの施設に支援が行われるよう、今後必要となる取り組みについて積極的に考え、実践していきたい」と述べた。

これに先立ち、昨年12月20日、日弁連は「外国人学校の幼児教育・保育施設を無償化措置の対象とすることを求める会長声明」を発表。

同声明では、改正「子ども・子育て支援法」の理念に照らし、各種学校を理由に幼保無償化の対象から朝鮮幼稚園をはじめとする外国人学校施設を除外することは、憲法14条、国連自由権規約2条1項、社会権規約2条2項、人種差別撤廃条約2条1項などが禁止する差別的取り扱いに該当する恐れがあると非難したうえで、外国人学校施設を対象とする法改正を前提に、それまでの期間、対象外施設に対する必要な措置を講じるよう求めていた。

(韓賢珠)

以下、埼玉、大阪弁護士会会長声明、京都弁護士会意見書の全文。

各種学校の幼児教育・保育施設を「幼保無償化」制度の対象にすること等を求める会長声明(埼玉弁護士会)

声明の趣旨

日本政府に対し,各種学校の幼児教育・保育施設に対して改正された子ども・子育て支援法に基づく無償化制度を適用することを求める。

地方自治体に対し,国が各種学校の幼児教育・保育施設に対して上記無償化制度を適用するまでの間,当該施設又は当該施設に入所している幼児の保護者に対し,上記無償化措置と同等の支援を行うことを求める。

声明の理由

  1. 2019(令和元)年10月1日,改正子ども・子育て支援法(以下「法」という。)に基づき,幼稚園,保育所,認定子ども園等の利用料を無償とする制度(以下「無償化制度」という。)が開始された。無償化制度の対象には,幼稚園の預かり保育を始め,認可外保育施設,一時預かり事業(ベビーシッター,ベビーホテル等も含む)等,様々な形態の施設及び事業が含まれている。しかしながら,各種学校(学校教育法134条)が運営する幼児教育・保育施設は,無償化制度の対象から除外されている(以下,無償化制度の対象から除外されている施設を「対象外施設」という。)。その理由は,日本政府によると「幼児教育を含む個別の教育に関する基準はなく,多種多様な教育を行って」いるから(関係閣僚合意「幼児教育・高等教育無償化の制度の具体化に向けた方針」2018. 12. 28)とのことである。
  2. そもそも,無償化制度の理念は,「全ての子どもが健やかに成長するように支援するものであって、良質かつ適切なものであり、かつ、子どもの保護者の経済的負担の軽減について適切に配慮されたものでなければならない」(法2条)というものである。この点に照らせば,「多種多様な教育を行って」いるとの理由で各種学校の幼児教育施設を除外することは,法の趣旨に沿わず,憲法14条,並びに差別的取り扱いを禁止した社会権規約2条2項,自由権規約2条1項,子どもの権利条約2条1項及び人種差別撤廃条約2条1項等の人権諸条約に反する。
  3. 無償化制度制定過程における国会議論からも明らかなとおり,無償化制度の財源は,これと同じ日に開始した消費増税による税収が充てられているところ,無償化制度から除外された当事者は,税負担の増加に見合った恩恵を受けることができていないという極めて不公平な状態に置かれている。
  4. このような状態が一刻も早く是正されるために,当会は,日本政府に対し,各種学校の幼児教育・保育施設に対し一刻も早く法改正を行って無償化制度を適用することを求める。また,地方自治体に対しては,住民間に生じている不平等を看過せず,速やかに,政府が無償化制度を適用するまでの間対象外施設又は当該施設に入所している幼児の保護者に対し,救済措置として無償化措置と同等の支援を行うことを求める。

2020年2月12日

埼玉弁護士会会長 吉澤 俊一

「幼保無償化」から外国人学校の幼児教育・保育施設を除外しないことを求める会長声明(大阪弁護士会)

子ども・子育て支援法改正法が、2019年(令和元年)10月1日から施行され、幼児教育・保育の無償化(以下「幼保無償化」という。)が始まった。認可幼稚園、認可保育園、認定こども園のほか、認可外保育施設、一時預かり事業、病児保育事業、ファミリー・サポート・センター事業も幼保無償化の対象とされた(子ども・子育て支援法第7条10項、第30条の2以下等)。

ところが、政府は、ブラジル人学校や朝鮮学校等、各種学校である外国人学校の幼児教育・保育施設(以下「外国人学校幼保施設」という。)は「幼児教育を含む個別の教育に関する基準はなく、多種多様な教育を行っており、また、児童福祉法上、認可外保育施設にも該当しないため、無償化の対象とはならない。」とした(「幼児教育・高等教育無償化の制度の具体化に向けた方針」2018年12月28日関係閣僚合意。以下「閣僚合意」という。)。

外国人学校幼保施設の中には、元々、認可外保育施設として届け出ていた施設や、幼保無償化施行に向けて新たに認可外保育施設としての届出を行おうとした外国人学校幼保施設もあった。しかるに、閣僚合意に基づく厚労省の指導(子発0405第2号2019年4月5日厚生労働省子ども家庭局長「児童福祉法施行規則の一部を改正する省令の公布交付について」)により、地方自治体は、外国人学校幼保施設の認可外保育施設としての届出を受け付けず、更には、認可外保育施設として届け出ていた外国人学校幼保施設に認可外の廃止届を求めた。

しかしながら、幼保無償化の対象となるのは、認可外保育施設の届出をした施設のうち、内閣府令で定める基準を満たす施設であるところ、同府令に定める保育の内容は、「(1)小学校就学前子ども一人一人の心身の発育や発達の状況を把握し、保育内容が工夫されていること、(2)小学校就学前子どもが安全で清潔な環境の中で、遊び、運動、睡眠等がバランスよく組みあわされた健康的な生活リズムが保たれるように、十分に配慮がなされた保育の計画が定められていること」等であり、「幼児教育を含む個別の教育に関する基準」による保育が要求されているわけではない(子ども・子育て支援法第7条10項4号、平成26年内閣府令第44号子ども・子育て支援法施行規則第1条1号二)。

子ども・子育て支援法は、「すべての子どもが健やかに成長すること」(法第2条2項)を基本理念とするものであるにもかかわらず、認可外保育施設の届出を受け付けなかったり廃止届出を求めるなどすることは、実質的な外国人差別を助長するものであって、憲法第14条、自由権規約第2条1項、社会権規約第2条2項、人種差別撤廃条約、子どもの権利条約第2条1項などが禁止する差別的取扱いに該当する。

したがって、当会は、国及び地方自治体に対し、幼保無償化の対象から外国人学校幼保施設を除外しないことを求める。

2020年 2月13日

大阪弁護士会会長 今川 忠

「各種学校」である外国人学校等も幼児教育・保育無償化の対象とすることを求める意見書(京都弁護士会)

2020年2月19日

内閣総理大臣 安倍  晋三 殿

文部科学大臣 萩生田  光一 殿

厚生労働大臣 加藤 勝信 殿

京都府知事 西脇 隆俊 殿

京都市長 門川 大作 殿

京都弁護士会

会長  三野 岳彦

第1  意見の趣旨

  1. 国は、「各種学校」として認可を受けた外国人学校やインターナショナル・スクールの幼児教育・保育施設についても、幼児教育・保育の無償化制度の対象とするべきである。
  2. 京都府及び京都市は、「各種学校」として認可を受けた外国人学校やインターナショナル・スクールの幼児教育・保育施設に対し、国がこれらの施設を幼児教育・保育の無償化制度の対象とするまでの間、財政的支援を実施すべきである。

第2  意見の理由

  1.  幼保無償化制度の対象から「各種学校」が除外されたこと。子ども・子育て支援法の改正を受けて2019年(令和元年)10月1日に始まった幼児教育・保育の無償化(以下「幼保無償化制度」という。)は、「各種学校」の幼児教育・保育施設を適用対象から除外した。京都府下では、京都朝鮮初級学校、京都朝鮮第二初級学校の附属幼稚園、Kyoto International SchoolのEarly Learning Program(いずれも京都市所在)が幼保無償化制度の対象外とされている。学校教育法は、同法上の教育機関として、「学校」(同法一条。いわゆる「一条校」)、「専修学校」(同法124条)、「各種学校」(同法134条)の3種類を定めている。このうち、幼保無償化制度の対象から除外されているのは「各種学校」の幼児教育・保育施設のみである。
  2. 外国人学校やインターナショナル・スクールは学校教育法上「各種学校」になるしかないこと。2019年(令和元年)時点で、全国には、「各種学校」として認可を受けた外国人学校やインターナショナル・スクールが128校存在している。教育施設が「学校」(幼稚園、小学校、中学校、高等学校等の「一条校」)としての認可を受けるためには、文部科学大臣の定める要領(幼稚園教育要領、学習指導要領)に準拠した教育を行う必要がある(同法1条、25条、33条、48条、52条)。しかし、外国人学校やインターナショナル・スクールは、外国にルーツのある子どもたちのニーズに合わせた教育を行うことを目的としており、子どもたちのルーツの国の言語や文化・歴史、教育制度等をふまえたカリキュラムや子どもたちの国際的な背景を踏まえたカリキュラムでの教育を行うことにこそ存在意義がある。そのため、現制度上、外国人学校やインターナショナル・スクールが「学校」となることは不可能である。また、「専修学校」としての認可を受けるためには、「我が国に居住する外国人を専ら対象とする」学校であってはならないため(同法124条)、外国人学校やインターナショナル・スクールは「専修学校」になることもできない。その結果、外国人学校やインターナショナル・スクールは、学校教育法上の機関として認可を受けようとする場合、「各種学校」として都道府県の認可を受けるしかない(同第12章「雑則」、134条)。
  3. 「各種学校」は外国にルーツのある子どもたちの人権保障に貢献していること。上記の制度的制約の下で、外国人学校やインターナショナル・スクールは、「各種学校」としての認可を受け、外国にルーツのある子どもたちの教育を受ける権利(憲法26条1項、子どもの権利条約28条)、そして母語・継承語や自己のルーツに関わる文化を享有する権利(同30条)の保障に大きく貢献している。日本で暮らす外国にルーツのある子どもにとって、ルーツの国の言語、文化に基づく幼児教育・保育を受けられる環境は、言語的な発達やアイデンティティを育むうえでかけがえのないものである。その環境を保障することは憲法及び子どもの権利条約上の国の責務である。
  4. 「各種学校」の除外は外国にルーツのある子どもたちに対する差別政策であり憲法及び人権条約に違反すること。今般の幼保無償化制度は、「各種学校」としての認可を受けた外国人学校やインターナショナル・スクールの幼児教育・保育施設を無償化の対象から除外した。これは、それらの施設に通う外国にルーツのある子どもたちから、外国にルーツがあることを理由として教育を受ける権利(憲法26条1項、子どもの権利条約28条)、そして母語・継承語や自己のルーツに関わる文化を享有する権利(同30条)を享有する機会を奪う差別政策にほかならず、憲法14条、自由権規約2条1項、社会権規約2条2項、子どもの権利条約2条1項及び2項、そしてあらゆる人種差別を撤廃する国際条約5条(e)(v)が定める差別禁止原則に違反し、許されない。
  5. 子ども・子育て支援法の基本理念は「全ての子ども」を支援するものであること。幼保無償化制度を定める子ども・子育て支援法も、その目的を「一人一人の子どもが健やかに成長することができる社会の実現に寄与すること」と定め(1条)、基本理念を「子ども・子育て支援給付その他の子ども・子育て支援の内容及び水準は、全ての子どもが健やかに成長するように支援するもの. 」としており(同2条2項)、ここにいう「子ども」は、国籍やルーツ、「各種学校」に通うか否か等によって区別されていないし、区別されるべきものでもない。同法のこのような目的や基本理念からすれば、日本に住むマイノリティである外国にルーツのある子どもたちが、如何なる口実によるものであれ幼保無償化制度の適用対象から漏れてしまうことはあってはならない。
  6. 地方自治体による支援が可能であり望まれること。幼保無償化のための地方自治体独自の支援について、閣僚合意(平成30年12月28日)は、「6. その他(幼児教育の無償化に伴う取組)」において、「地方自治体によっては、既に独自の取組により無償化や負担軽減を行っているところがある。今般の無償化が、こうした自治体独自の取組と相まって子育て支援の充実につながるようにすることが求められる。このため、今般の無償化により自治体独自の取組の財源を、地域における子育て支援の更なる充実や次世代へのつけ回し軽減等に活用することが重要である。」と指摘している。さらに、内閣府「幼児教育・保育の無償化に関する自治体向けFAQ【2020年1月17日版】」の1-22は、認可を受けていないが、地域や保護者のニーズに応えて教育活動を行っている、いわゆる幼児教育類似施設について、上記閣僚合意を引用しつつ、「国としては、その方策の一つとして、今般の無償化の対象とならない施設の利用についても、地域の教育機会の確保に重要な役割を果たすと認められるものであれば、支援の充実を積極的に検討いただきたいと考えています。地域や保護者のニーズに応える幼児教育類似施設であって、自治体が積極的に支援を行うようなものについては、国としても、地方と協力してどのような支援ができるか検討してまいります。」と宣言している。以上に加え、前述した憲法、国際人権規約、子どもの権利条約及び人種差別撤廃条約の各規定並びに子ども・子育て支援法の目的及び基本理念に鑑みれば、地方自治体には、国が幼保無償化制度の対象に「各種学校」を含めるまでの当面の措置として、積極的な財政的支援を実施することが求められる。実際にも、埼玉県志木市や、東京都国立市等、幼保無償化制度の対象外となっている幼児教育類似施設や外国人学校の幼稚部に対し、独自の支援を行っている地方自治体がある。京都府及び京都市は、前述の3施設が所在する地方自治体として、積極的な財政的支援を実施すべきである。
  7. 結論。以上より、当会は、国に対し、意見の趣旨1の対応を求め、京都府及び京都市に対し、意見の趣旨2の対応を求める。

以上